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トップページ カードリスト(コスト1以下) 《ゼロ》 《ゼロ》 基本情報 カード名 ゼロ コスト/パワー 1/3 テキスト 公開時:次に自分がプレイするカードの全ての効果を取り除く。 収録シリーズ シリーズ3 特徴 次にプレイする自分のカードを効果なしカードに変えることができます。 《デストロイヤー》など明確な弱点が存在するカードや、《リアリティ・ストーン》など効果発動後の状況が不安定なカードに繋げると効果的です。このカードによって効果を除去されたカードは、《パトリオット》や【ワシントンD.C.】などの効果対象になり、パワーが上昇します。 「次に自分がプレイするカード」が無ければ実害もゼロなので、最終ターンで、文字通り「このゲームでプレイする最後の1枚」としてプレイするのも効果的です。コスト2相当の高い基礎パワーを持っているため、最終局面で「エネルギーが1だけ余った時」などに重宝します。 特殊な状況について ▶︎《シャーナ》の効果で出ると逆に邪魔になる 《ゼロ》はコストが1であるため、《シャーナ》の公開時効果でロケーションへ出る可能性があります。《シャーナ》がロケーションの自分側へ出た後は、追加されたカードの中に《ゼロ》が含まれているかどうかを必ず確認しましょう。 《ゼロ》が出ている場合、そのまま次のターンに《カイ・ザー》をプレイすると、その永続効果が除去されてしまいます。 アップデート履歴 2022/10/18 ・初期カード(シリーズ3)として実装されました。 ▶︎カードリストへ戻る カードリスト(コスト1以下) カードリスト(コスト2) カードリスト(コスト3) カードリスト(コスト4) カードリスト(コスト5) カードリスト(コスト6以上) ▶︎トップページへ戻る
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「私はね魔術師なんだ……」 その言葉はとても悲しげで切なげでまるで届きそうで届かない星に向かって手を伸ばそうとしているみたい。 私は思う、この人はこんなにも凄い魔法使いなのになんで私のことをそんな風な目で見るのだろうかと。 私は魔法の一つも使えない魔法使いだと言うのに…… ほんの僅かな時間を経てまどろみから醒める、目の前には染みの浮いた見知らぬ天井があった。 「此処は……」 「お目覚めですか? ミスヴァリエール」 隣から掛けられた声に振り向くと、そこには学園で何度か見かけたメイドが居た。確かシエスタと言う名前だったっけ? なんでこんなところに。 「あのミスヴァリエール、ミスタコルネリウスは一体何処に……」 そう言われて唐突に思い出す、ウェールズ様、レコンキスタ、去り際のアイツの笑顔。 私にとって無敵としか思えないアイツが見せた儚げな微笑。 「あの馬鹿っ!?」 その意味に思い当たった時、私は全力でアイツのことを罵倒していた。 去り際にアイツに撫でられた頭が疼く。 召喚した時は平民だと思って随分失礼なことを言ってしまった。 私なんか、いや私が知るどんなメイジも及びもつかない魔法使いだと知った時は恥ずかしくて死にそうだった。 私の使い魔をやってくれるって聞いた時は耳を疑い、その後すごく嬉しい気持ちになったっけ。 教えてくれた異世界の魔法は私に貴族の誇りをくれた。 覚えている、なんで私なんかの使い魔をしてくれるのか?と聞いた時の寂しげなアイツの顔を。 ――何、恐いお姉さんの下から助け出してくれた命の恩人に報いるだけのことさ 覚えている、なんで私なんかの面倒をこんなに見てくれるのか?と聞いた時の怒ったようなアイツの顔を。 ――しょうがないじゃないか、私は君の使い魔なのだから。魔術師として一度結ばれた契約を軽視はできんよ。 覚えている、なんでこうまでして私を助けてくれるのか?と聞いた時の嬉しそうなアイツの顔を。 ――知らなかったのかい? 魔術師と言う人種はね馬鹿みたいに身内にだけは甘いのさ! そう言って赤いコートを翻しておどけたように笑うアイツの背中は、"眠り”のルーンによって齎らされる強制的な意識の断絶を前にして私の心に焼きついて離れない。 「あの馬鹿……そう簡単に死なせるもんですかっ!」 血が出る程に唇を噛み締めながら、私は呟いた。 ○ ○ ○ それはまさに悪夢だった。 レコンキスタの先鞭を務める竜騎士達が見たのは、ただ草原に一人立ち塞がる赤い外套のメイジであった。所詮一人――と侮りがあったことは否定しない。だが彼らをして悪魔と言わしめるだけの恐ろしさがその赤い外套の青年にはあったのだ。 「Repeat!」 青年が一言唱えるたびに紅蓮の焔が舞い上がる、詠唱の間を突こうとした同僚が火達磨になるのを見て新米の竜騎士である“彼”は全速で逃げ出したくなった。 在り得ない、スクウェアかそれ以上の火力を出していることもそうだが、それだけの威力のある魔法を使いながらもただ一言しか詠唱しないことも、自身を守る弾幕の如く魔法を展開していると言うのに精神力に一切の翳りを見せないことも。 「なんだ、なんだお前はぁぁぁぁ」 自身に迫る炎の波を見つめながら、“彼”は絶叫した。 「私かい? 私はねただのしがない魔術師さ」 帰ってきた声には自嘲と“彼”に対する羨望が入り混じっていたことに、果たして“彼”は気づいたか。 いや気づくまい。 これだけのことを為しながら赤い外套の魔術師がこの上なく“彼”のことを羨ましがっていたなど、絶対に“彼”は気づくはずがない。 「さて幕だ」 寂しげにぽつりと呟いたその言葉と共に、“彼”の体を焼き払う灼熱の炎。 唯一の幸運は熱いと思う間も無く“彼”の体が骨まで消し炭になったことだろう。 「――なんて、無様」 “彼”の遺体を眺めながら、齢五十を越えた魔術師は嘆息する。 まるで当り散らすような魔術師行使、これはアオザキに笑われても仕方が無い。 一面の焼け野原となった草原に足を踏み出し、直前に“彼”が行った奇跡に思いを馳せる。 「こうも容易く成し遂げられては本当に形無しだな……」 風吹くところ何処にでも現れる風のユビキタス。 紛うことなき第二魔法を行った魔法使いの遺体を足蹴に、真紅の魔術師は歩いていく。 「知っているかいミスヴァリエール、私たち魔術師と言う人種は魔法使いの成れの果てなんだ」 かつて桃色の髪の魔法使いに語った言葉を、まるで詩のように呟きながら。 「追い抜かれ、骨董品に成り下がった神秘の担い手。届かないと分かってもかつての奇跡 魔法 に向かって挑み続ける愚か者達」 まるで聖人が海を割るように人の波を真っ二つに切り裂いていく。 「私はねこの世界に来て驚愕したよ、奇跡が神秘によらず成立した魔法使いで溢れたこの世界にね」 けれど…… 「これほど素晴らしい世界なのに、何故これほど私の心は空虚なのだろうね」 今ならば分かる、かつての自分がどれほど奢り、くだらない虚栄に満ち、そして溢れんばかりに充実していたのかと言う事を。 魔術師は思う、きっとあの日あの時あの場所でただがむしゃらに魔術の徒として高みを目指す自分は死んだのだろうと。 「さてと、これで粗方……」 パンとシャンパンの栓でも抜いたような音が鼓膜を叩き、魔術師はゆっくりと自分の胸へと視線を落とした。 そこには冗談のような小さな穴が空いており僅かに血が流れている。 あまりにもちゃちな傷すぎて、最初魔術師はそれが何によって抉られた傷なのか分からなかった。 「あっ、あああ、化け物っ、化け物っ……!」 体の下半分を失った兵士が握り締めた鉄の塊が、真っ黒な煙と硝煙の匂いを吐き出しているのを見るだけは。 そして理解してしまえばあとはもう笑うしかなかった、誰よりも魔術師たろうとしていた自分が魔法が現役の世界で、魔力によらない攻撃によって死ぬなど笑い話でしかない。 「危ないな」 笑いながらそう告げると、自分を撃った兵士の横を悠然と通り過ぎる。 直せない傷ではないし、脈々と受け継いできた魔術刻印が死ぬことを許さないだろうが、しかしもはやなにもかも馬鹿らしくなってしまった。 「嗚呼、アオザキ。こんなことなら君に殺されておけばよかった……」 ○ ○ ○ 無人の野となった戦場を私は走る。 土の焦げる匂い、空気の燃える匂い、人の焼ける匂い。 むせ返るような血の匂いと、死体が腐る匂いで吐き気が止まらない。 走って、走って、そして辿りついた先で――私は魔法のように恋に落ちた。 見渡す限り焼け焦げた闇に溶け込む真っ黒な草原で、彼はもとから赤いコートを血で染めながらぼんやりと月を見上げていた。 右手に以前一度だけ見せてくれた写真を掴み、焦点の合わない目で透明で視線で空に浮かぶ二つの月を眺めていた。 でも私には分かってしまったのだ、この人が見ているのは月などではなくもっともっと遠くにいる誰かの影だと言う事に。 どうしようもなくコイツが死に惹かれていると言う事に。 「アルバ……」 私は、どうしようもなくコイツを振り向かせたかった。 「コルネリウス・アルバ!」 叫んでも、喚いても、コイツは私に視線を向けようとはしない、それが本当にどうしようもなく悔しかった。 「こっちを見て! 私をちゃんと見なさいよ! なんで、なんで私のことを見てくれないよ!」 ――私はもう『ゼロ』じゃなくなった筈なのに、師匠であり目標でありもっとも身近な相手である筈の相手一人振り向かせることさえ出来ない。 「いいわ、それなら力づくでも振り向かせて見せるから」 コイツにだけは絶対に私のことを認めさせたい。 心の奥底から沸きあがってくる殺意にも似たこの気持ちは、『恋』以外名付けようがないと思われた。 『空の境界』より『コルネリウス・アルバ』召喚
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ノコ (CV:白川愛実) 夢はドームでライブ!?パリでファッションブランド展開!? 自己紹介(公式HPから引用) あたし、ノコ! マンガとアニメとゲームと音楽とファッションが好きな どこにでもいる普通の女子なの! しかしてその実態は……!! 本編に続く! ※自己紹介に攻略の鍵が隠されていることも?
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前ページ次ページゼロの白猫 翌日、当然だが学院は大騒ぎになっていた。 名にしおうトリステイン魔法学院に盗賊が堂々と侵入し、ゴーレムを使って宝物庫を破壊、そして学院の秘宝を盗み去る。学院創立以来の大事件である。 宝物庫の壁には『破壊の杖、確かに領収致しました 土くれのフーケ』という人をくったサインが壁に残されていたという。昨夜の黒ローブは土くれということで間違いなかったらしい。 フーケが土くれと呼ばれる所以は、彼女が『錬金』の魔法の使い手で、メイジの用意した防御をことごとく土くれに変えてしまうことから名づけられたとか。 無論貴族も『錬金』の魔法の対策はしている。それは『固定化』という魔法だ。 『固定化』とは、『錬金』と同じく土系統の魔法で、物質の腐敗・酸化といったあらゆる化学反応を防ぎ、半永久的にその姿を保ち続けさせるという、菌に優しくない魔法である。醸せねー。 『錬金』の魔法を『固定化』がかかった物質へ掛けた場合、どちらが効力を発揮するかは掛けたメイジの能力に依存する。フーケは錬金のエキスパートだったらしく、これまで数々のメイジの固定化が土くれに変えられていたのだ。 そんなフーケといえど、スクウェアメイジが数人掛かりでかけた『固定化』は破ることはできまい。学院の誰もがそう思っていたのだ。だから、『固定化』以外の魔法が宝物庫に掛けられていないことを誰もが見逃していた。 結果、ゴーレムによる力技で壁をぶち壊すという荒業でまんまとフーケは仕事をなしていったのである。 「フーケめ、まさかこの学院にまで狙いをつけていたとは……!」 「『破壊の杖』はオールド・オスマンが特に危険な物と念押ししていたものですぞ!」 「見張りの衛兵は何をしていたのだ!」 慌てふためいて混乱すし、全く統制のとれていない教師たち。 ルイズは忙しない教師たちの様子を無味乾燥な眼で眺めていた。昨夜の事件の目撃者として呼び出されていたのだ。傍らにはキュルケにタバサもいる。二人の心中は知る由もないが、つまらなさそうな様子は三人とも共通していた。ルイズに同伴しているレンもあくびをしていた。 「衛兵など当てにならん、所詮平民だろう! それより当直の教師はどうしたのだ!」 教師の誰かが言った言葉に、シュヴルーズが震えあがった。 昨日の当直は彼女だった。けれども彼女は自室で眠りこけ、朝起床してようやく事件のことを知ったのである。 「ミセス・シュヴルーズ! 貴方は当直でありながら何をしていたのです!」 見て分かるほどぶるぶると震えるシュヴルーズ。責任の大きさからの恐怖ゆえか、涙まで零している。 教師たちはここぞとばかりに彼女を一斉に責め出す。学院長が来る前に責任の所在を明らかにし、自分たちは非難の的にならぬようにしようとしているのだろう。 「泣いても盗まれたものは戻ってこないのですぞ! それとも貴方が破壊の杖を弁償するとでも言うのですか!」 「む、無理です、私家を買ったばかりで……」 座り込んで泣き崩れてしまうシュヴルーズ。このまま責任を負わせる人柱が決まってしまいそうな、その時。 「これこれ、よってたかって女性を苛めるでない。女性を苛めていいのはベッドの上だけじゃぞ」 何と言う破廉恥な発言。こんな発言ができるのは、いや学院の教師全員に向かってこんな発言ができるのは、この学院の最高権力者、オールド・オスマンその人しか居ない。 オールド・オスマン。現存する最も偉大な魔法使い、300年生きたメイジなど、様々な通り名を持っている。噂では、本人は白髭公と呼ばれたがっていたとかいないとか。 しかし、このおじいさんは老いて尚盛んとも有名である。彼が先ほどの発言どおり、女性を苛めるのはベッドの上だけかは非常に疑わしい。 日ごろの彼は、カリスマは無いに等しいスケベ老人で通っている。しかし、この場においては紛れも無く最高責任者の存在感を漂わせていた。 「しかしオールド・オスマン! 彼女は当直でありながら仕事をサボタージュしていたのです!」 「この中で、日頃真面目に当直をしていたものはどれだけおるかね?」 オスマンのその言葉で、先ほどまで勢い込んでいた教師が黙り込む。教師の誰もがオスマンと目を合わせようとしない。 「この通りじゃ。当直の習慣など形骸化して久しいからのう。責任があるとすれば、この場の学院教師全員にじゃて」 オスマンにこう言われては、もはや責任を誰か一人に押し付けることなどできようはずもない。救われたシュヴルーズは涙を流してオスマンに擦り寄った。 「あ、ありがとうございます、オールド・オスマン!」 「ひょっひょっひょ。ええんじゃよええんじゃよ。お礼は君のお尻で払って貰うからのう」 「ええ、幾らでも触ってください、私ごときのお尻なら幾らでも!」 滑ったギャグほど寒いものは無い。特に場を和ませる為に言った物が滑った場合の寒さは本当に凍死しかねない。 誰も突っ込むものが居ない真面目な空気の中で、シュヴルーズの尻を撫でていた手を仕舞うと、取り繕うように一度咳払いをするオスマン。 「それで、犯行を目撃していたというのは誰かね」 「はい、この者たちです」 教師がルイズたち三人をオスマンに示す。無論、猫のレンは人数に数えられていない。時折後ろ足で耳を掻いているが、一応、ルイズの足元におとなしく佇んでいる。 「では君たち。昨晩目撃したものを話してもらおうかの」 「はい。昨夜、私は魔法の練習を行う為中庭にでておりました。そこにキュルケとタバサがやってきて、今日はもう帰ろうとしたところで中庭の植え込みからゴーレムが出てきたのです。ゴーレムは一撃で壁を壊して宝物庫へ侵入し……」 そこまで話して、一度ルイズは黙ってしまう。悔しさのせいで俯いてしまうが、何とか後に続く言葉を絞り出した。 「……戻ってきたフーケはそのまま逃げました。私たちを、無視して……!」 恥ずかしい。恥ずかしい恥ずかしい……! 最初から犯行現場にいながら何もできませんでした、と告白しているのだ、なんという恥辱! ゼロと蔑まれる日常も辛かったが、それとは全く別の悔しさがルイズを苛み続ける。手が真っ白になるほどに強く手を握り締めていた。 「気にすることはない、ミス・ヴァリエール。悪名高いフーケと対峙して君たちに怪我が無かったことこそ幸いじゃて」 ルイズへのオスマンの声は優しかった。生徒である彼女たちを責める気など微塵もないらしい。だが、そんな言葉も屈辱に打ち震えるルイズには何の癒しももたらさなかった。 「その後、タバサが風竜でゴーレムを追跡しましたが、ゴーレムは只の土の山になっていました。恐らくゴーレムを囮にして馬に乗り換えたのではないかと」 ルイズの報告にキュルケが補足する。あの後タバサはフーケを追っていたらしい。しかし何の痕跡も見つけられなかったということだ。 「むむう、それではまるで手掛かり無しか……」 髭を撫でながら唸るオスマン。現状の打開策がなく、部屋に重い沈黙が漂った。そこへ扉からノックの音が響く。 「誰じゃ?」 「失礼します。ロングビルです。遅くなってしまい申し訳ありません」 「入りたまえ」 学院長の許可と共にドアが開かれ、眼鏡の女性が入ってくる。 彼女はミス・ロングビル。オスマンの秘書である。年は恐らく20歳前半くらいか。その年齢でありながら秘書として有能らしく、オスマンからの信頼も篤い。しかし、噂によるとオスマンからのセクシャル・ハラスメントに日々悩まされているとか。 結婚適齢期であり、ややきつめのスーツではっきり浮き上がる女性の起伏は男性教師のみならず男子学生にもけしからんといわれている。その辺りにも原因があるだろう。オスマンにベッドの上以外で苛められている女性筆頭候補である。合掌。 「何処へ行っていたのです、大変なことになっているのですぞミス・ロングビル!」 「存じております。まず勝手に行動したことに謝罪を。朝から独自に調査を進めておりましたので遅れてしまいました」 「調査じゃと?」 「はい。朝起きれば学院中が騒がしい上、騒ぎの中心の宝物庫は無残に壊れているではありませんか。その上最近貴族を脅かしているというフーケのサインまで残されていたと聞きました。そこでフーケが逃げたと思われる経路を辿っていたのです」 「仕事が早いのう、ミス・ロングビル」 教師陣は驚きを隠せない。いち秘書に過ぎない彼女が誰よりも早く行動を起こしていたとは。 「して、何か手がかりは掴めたのかね」 「はい、フーケの隠れ家が分かりました」 「なんと!?」 ざわ……ざわ……。 「フーケを追った先で会った村で聞き込みを行ったところ、農民の一人が黒ローブで馬に乗った怪しい人物を目撃したと。その者は森の中の廃屋に入って行ったそうです」 「黒ローブ……確かに昨日のメイジも黒ローブをまとっていました! そいつがフーケに間違いありません!」 昨晩の犯行を行った人物は黒いローブで顔までスッポリ覆われていた。フーケに間違いないと思ってルイズは言う。 「ここからフーケの居る場所までどれほどかかるのかね?」 「はい、馬で4時間といった所でしょうか」 「オールド・オスマン! すぐに王宮へ衛士隊派遣の要請を……」 「バカモン!! 王宮まで使いを出し、要請が受理され、衛士が派遣されるまでどれだけかかると思っておる! その間にフーケは更に遠くへ逃げてしまうわ!」 一人の教師の提案はオスマンに一蹴される。確かに、フーケがいつまでもそこに潜伏している可能性は低い。すぐに追わねばフーケも秘宝も闇の中へと消えることだろう。 「それにこの事件は学院内で起きたもの。栄えあるトリステイン魔法学院は盗賊の侵入を許したばかりか秘宝まで奪われ、挙句解決に外部へ力を乞うたなどと恥を広げる気か! 我々学院の者だけで処理する!」 名誉を何より重んじるトリステインの貴族、その貴族たちの子供を通わせる名門トリステイン魔法学院。そこへ賊が入られ、おめおめ逃がしたとあればその権威は地に落ちるだろう。学院存続にもつながりかねない出来事なのだ。内々に処理したいというのは当然。 「ではこれよりフーケ討伐隊を編成する。我こそは、と思う者は杖を掲げよ!」 室内が静まり返る。誰一人として、杖を掲げるものは居なかった。 「どうした、誰もおらんのか! フーケを討って名を上げようというものは!」 再度のオスマンの呼びかけにも誰も応えない。誰とも目が合わないように俯き、なのに誰か志願者が居ないか横目でこそこそ伺っている。 ルイズは先ほどからずっとムカムカしていた。これが、貴族の姿か? 賊に入られて、宝を盗まれ、責任を擦り付け合い、敵の居場所が判っているのに尻込みする。 無様。それがルイズが彼らに抱いた感想だった。そして、ここにいる自分もこんな無様な連中と括りにされるのか。そう思った時、ルイズはもう堪らなかった。 「何をしているのです! ミス・ヴァリエール!」 シュヴルーズの悲鳴じみた声に、部屋中の視線がルイズに集中する。ルイズが高々と杖を掲げているのだから当たり前か。彼女の使い魔のレンも例外ではなかった。 「貴方は学生でしょう! 討伐者として行くなど危険すぎます!」 「誰も掲げないじゃないですか」 ルイズは教師の言い分をばっさり切り捨てる。今はこんな議論をしている一分一秒が惜しいのだ。誰も行かぬのなら自分がフーケを捕らえて見せる。私はこんな貴族たちにはならない。 ゆるぎない瞳でオスマンを見る。オスマンもまたルイズを見返し、笑って頷いた。 「うむ、ならば彼女に頼もうかのう」 「オールド・オスマン! 本気ですか! 相手はあの土くれのフーケなのですぞ!」 「ならば君が行くかね、ミスタ・ギトー」 「いえ、私は、今日は喉の調子が悪いもので……」 成る程、ルーンが唱えられないのならば仕方があるまい、などという者はこの場に一人も居はしなかった。 キュルケはしばらくルイズを見ていたが、やがて彼女も杖を取り出し、高々と掲げた。 「ミス・ツェルプストー! 君までどうしたというのだ!」 「ヴァリエールには負けていられませんもの。それに昨日の雪辱を晴らしたい、とも思いまして」 トライアングルクラスとしての自負はあった。しかし昨日のゴーレムは自分の炎をものともしていなかった。その屈辱を晴らすには、確かにこの討伐に参加するのが近道だろう。 杖を掲げる二人も見て、タバサも自分の身長よりも大きい杖を掲げる。 「ちょっとタバサ、あなたまで付き合うことないわよ」 「心配」 キュルケを見上げる瞳は無感情だが、彼女の言葉と行いはまぎれもなくキュルケとルイズを案じているものだった。 「タバサのそういう所、好きよ!」 場所をわきまえず、ぎゅーっとタバサに抱きつくキュルケ。あまつさえすりすりと頬ずりしている。一方のタバサは相変わらずの無表情であった。 「オールド・オスマン。やはり学生だけの討伐隊というのは無理があるのでは……」 「心配はいらぬよ。特に、ミス・タバサはその年でシュヴァリエの勲章を授与されているという話ではないか」 その時教師たちに電流走るーー! シュヴァリエの爵位は、照合の位置付けは低いが、授与されるには何らかの業績を残す必要があり、実力が無ければ貰えないものなのだ。タバサの年齢でそれを与えられたというのは、彼女が相当な実力者であることを示している。 「知らなかったわ。何で黙ってたのよ」 「言う必要も無い」 キュルケの問いに応えるタバサは冷めたもの。いつものぼーっとしたような瞳でぼんやり前を見つめている。 「ミス・ツェルプストーはゲルマニアの軍人の家系。優秀な軍人が何人も輩出されている。彼女自身も素晴らしい炎の使い手と聞いておる」 オスマンの言葉に、キュルケは髪を掻き上げて胸を張る。あの、胸元まで開いたシャツでこれ以上その胸を張られると、シャツからこぼれかねないのですがキュルケさん? 「そしてミス・ヴァリエールもトリステイン公爵の家の出身。またとても勤勉な学生じゃ。何より彼女は貴族の心構えが誰よりも素晴らしい」 オスマンの言葉に、ルイズもキュルケのように胸を張る。しかし、彼女にはこぼれるだけの起伏などありはしなかった。南無。 「では、フーケの居場所までは私が案内いたします」 「うむ、よろしく頼むぞ、ミス・ロングビル。すぐに馬車を用意させる。君たち、何としても破壊の杖を奪還してきてくれ」 「はい、必ず。杖にかけて!」 「「「杖にかけて!!」」」 若きメイジたちは杖を掲げて唱和し、オスマンへ一礼するのだった。 御者台で馬車を操るのはロングビル。残りの三人と一匹はは、荷車のような屋根の無い馬車に乗っていた。襲われた時にすぐ逃げ出せるようにという配慮らしい。 馬車で揺られること4時間の旅。太陽が天頂近くに来た時には森へとついていた。森への中へは馬車が入ることができない。一行は馬車から降りて徒歩で森の中を進んだ。 獣道のような細い道を進んでゆくと、視界が開けた場所に出た。空き地のようになっている草むらに、ぽつんとぼろい廃屋が建っている。 「私が聞いた話によると、あそこにフーケは潜伏しているそうです」 そういってロングビルは小屋を指差す。確かに、こんな奥まった森の中、しかも捨てられたような小屋に立ち寄るような物好きは居まい。隠れ家としては上々だろう。 「作戦を立てる」 タバサが一行に呼びかけた。流石シュヴァリエ授与者。こういったケースにも一家言あるらしい。 立てられた作戦はこうだ。最善策はフーケに何もさせないこと。小屋をキュルケの魔法で焼き払えれば一番なのだが、その方法だと奪還すべき『破壊の杖』が無事である保証が無い。 次善策として、フーケは土のメイジであることに着目する。自分に有利なフィールドとして、敵を発見すればフーケは土のある屋外へ出ようとする筈。囮兼偵察役が小屋へ行き、フーケが居た場合外へおびき出し、魔法の集中砲火で一気に殲滅する、ということに決めた。 「レン、あんた偵察に行ってきなさい」 ルイズは白猫を自分の眼前まで持ち上げて命令する。 「前にやったみたいに私と視覚を共有して、あんたが偵察に行くの。中にフーケが居たらあんたがおびき出しなさい。誰も居ないようなら私たちも行くわ」 レンから返答は無かったが、ルイズの顔を見つめ返しながら一度こくりと頷いた。するとルイズの右目の視界だけにルイズ自身の顔が写る。視界の共有に成功したようだ。 ルイズの腕からレンが飛び降り、小屋へとまっすぐに向かっていく。小屋から丸見えだろうが、囮役としては良いだろう。フーケが小屋の中にいるならかなり気を張っているはず。メイジの使い魔に多い猫が近づいてくるならば何らかのアクションをする可能性が高い。 「ご自分の使い魔を信頼されているのですね、ミス・ヴァリエール」 つぶさにレンと小屋を観察していたルイズに、ロングビルから声がかけられた。 「ええ、逃げ足の速さは。良く逃げられますので」 「ルイズ、それ自慢にならないわよ」 「黙ってなさいツェルプストー」 「貴方の使い魔はどんな能力があるのですか?」 そのロングビルの質問に一瞬詰まるルイズ。ここは無難に普通の使い魔にできることだけ言っておけばいい、と考えた。 「どんなって、普通です。視界の共有や意思の疎通ができるくらいの。それが何か?」 「いえ、とても綺麗な猫だったので、少々興味があっただけですよ」 そう言ってロングビルは小屋へと向かうレンへと視線を戻した。ルイズもレンと小屋へ意識を向ける。 もうレンは小屋まで辿り着き、窓を覗きこんでいるところだ。ルイズにも小屋の内部の様子が見えてくる。 「中に誰もいないじゃない」 窓から見える範囲では中に人影は確認できなかった。レンはさまざまな角度から小屋の中を見渡してみるが、やはり誰一人見つけることはできない。 「フーケはいないみたいよ。私たちも小屋へ向かいましょう」 「では、私はフーケが戻ってきたときに備えて周辺を警戒していますわ」 「一人で大丈夫? フーケは少なくともトライアングルクラスの使い手よ」 「ご心配には及びません。私もメイジの端くれ。ラインクラスとはいえ皆様が戻るまで逃げ延びるくらいはして見せます」 ロングビルはそう言って森の中へと入っていった。 「フーケの追跡から聞き込み、私たちの案内に加えて哨戒まで。働き者ねぇ、あの人」 「私たちも負けてられないわ。行くわよ」 ルイズたちは小屋へと向かって歩き出す。その間も周囲を警戒しながら進むが、やはり何の妨害も無かった。無事に小屋まで到着する。ルイズは仕事をこなしたレンの頭を軽く撫でてやった。 タバサがドアへ『ディテクト・マジック』を唱える。対象物の状態を調べる魔法だ。タバサがうなずく。どうやらワナは無いらしい。 「開けるわ」 小屋の中へと入るルイズとキュルケ。タバサは念のため入り口で見張りをしておく。 長い間、人が入らなかったらしい。小屋の中は何処もかしこも埃だらけ。床には積もった埃に足跡が残っている。最近人の出入りがあったことは確かだろう。 中にはほとんど物が無かった。その中で目を引くのは簡易的なチェスト位か。こんな所にまさか破壊の杖があるとは思えないが、念のため開けてみる。 「え」 「これ、『破壊の杖』じゃない! あっけないわねー」 大穴だ。まさかこんな簡単に破壊の杖が取り戻せるとは。 ルイズは手にとって『破壊の杖』を観察する。まず、軽い。そして何から作られているのかわからない。金属でできているということはわかるが、こんな金属はルイズもキュルケも見たことが無かった。 見た限りでは1メイルほどの大きさの筒、といった印象だろうか。はっきり言って、魔法の杖には見えない。 ふと、ルイズはレンがなにやらじっと破壊の杖を凝視していることに気付く。この猫もこれに興味があるのだろうか。 と、大きな音を立ててドアが開かれる。タバサには珍しく焦った様子でルイズたちへ叫ぶ。 「来た!」 その声と同時に、小屋の屋根が吹き飛んだ。余計なものが無くなってすっきりした、などという感想が浮かぶはずも無い。綺麗に吹き飛んだ天井から見えるのは、青い空、白い雲、そして土でできた拳。 「これは……待ち伏せ……!」 襲ってくるタイミングが良すぎる。恐らくフーケは近くからこちらを伺っていたのだろう。それなら何故破壊の杖を持ち出さなかったのか、という疑問が湧くが、今は頓着している場合ではない。 ゴーレムに小屋ごと潰される前にルイズとキュルケは脱出する。そこには昨日と同じ、自分たちの十数倍はある大きさのゴーレムがその巨躯をさらしていた。 フーケは見当たらない。昨日のようにゴーレムに乗っていれば一気に攻撃を仕掛けただろうが、そんなヘマをするほど向こうも甘くは無いらしい。 「やるしか、ないわね!」 「キュルケ、タバサ! 一斉に仕掛けるわよ!」 「了解」 ルイズの求めに応じ、三人がゴーレムへ一斉に杖を向ける。 まずタバサが『エア・ハンマー』を唱える。空気の塊がゴーレムの胴体に直撃し、巨体を揺らす。 それにキュルケが『フレイム・ボール』続いた。彼女の胴体ほどもある巨大な火球が放たれ、タバサの起こした空気の塊に引火し、ゴーレムは業火に包まれた。 最後にルイズが攻撃を仕掛けた。彼女が唱えたのは『ファイアー・ボール』だったが、結局炎は生まれなかった。何時もどおり、いや何時もより大きい爆発が、ゴーレムの胴体で前触れも無く炸裂する。 「どう……!?」 もうもうとした土煙でゴーレムの姿が遮られてしまう。数秒の後に現れたのは、ぽっかり開いた穴を下の土で再生しているゴーレムの姿だった。控えめに見ても、攻撃が聞いているようには思えない。 「これほどなの……!?」 「一旦退却」 タバサが口笛を吹く。その音を合図として、空に風竜のシルエットが現れる。確かに破壊の杖の奪還は果たした。ならばこのまま逃げるのが上策だろう。が――。 「駄目よ! ミス・ロングビルが居ないじゃない!」 小屋へ侵入する前に別れてから、一度もロングビルを見ていない。見えないところでフーケと応戦しているのか、あるいは既にフーケに……。 「っ!!」 「きゃあぁ!!」 逡巡しているメンバーにゴーレムの拳が降って来る。三人とも何とか交わしたが、ルイズは二人と別方向に跳んでしまった。ゴーレムを間に挟む形でのパーティー分断。状況は非常にまずい。 「ルイズ! 上からシルフィードであなたを拾うわ! それまで何とか逃げ延びなさい!」 キュルケが風竜に乗り込みながらルイズへ叫ぶ。ゴーレムの間を走り抜けることは確かに危険だ。それを避ける為に風竜で回り込んでルイズを拾う考えらしい。 問題は、それまでこのゴーレムの拳から逃げられるか、ということだ。ゴーレムの動きは確かに鈍いが、巨体ゆえの力の大きさ、辺り判定の大きさ、一挙動の動きの大きさを考えると、回避し続けるのは難しいだろう。 「そうだ! これを使えば……!」 ルイズは自分が持っている破壊の杖に意識を向けた。学院長があれほど危険視したマジックアイテムである。名前からしても、こんなゴーレムをも倒せるようなすごいシロモノに違いない――! 祈りをこめて『ファイアー・ボール』の詠唱をする。地響きを立ててこちらへ近づいてくるゴーレムに焦りが生じる。可能な限り早く、間違いの無いように――! 長いような短いような時間が経ち、ゴーレムの腕が届くような距離に来た時に、ルイズはようやくルーンを唱え終えた。間に合う!! 「ええぃっ!!」 そして破壊の杖を振り下ろす。しかし、何も起こらなかった。 「あ、あれ!?」 ゴーレムへの攻撃はおろか、何時もの失敗魔法の爆発も起こらない。必死でルイズは破壊の杖を振る。しかし杖はうんともすんとも言いはしない。 焦燥に胸を焦がすルイズに構わず、ゴーレムは足を持ち上げる。ルイズを踏み潰す気らしい。キュルケとタバサは未だ上空に居る。絶体絶命だ。 視界全てを黒く塗りつぶすゴーレムの足に、ルイズはぎゅっと目をつぶった。 「タバサ! 強引にでもルイズへ近づけて! 私があの子を回収するから! お願い!!」 キュルケが必死にタバサへ懇願する。タバサは安全の為もっと後ろ側から近づきたかったのだが、確かにそんな余裕は無さそうだ。もうゴーレムとルイズは接近しすぎている。 ルイズは破壊の杖を振り回しているが、何も起こる様子は無い。本当にあれはマジックアイテムなのか、という疑念すら浮かぶ。 シルフィードに高速でルイズへ急降下するように指示を飛ばすが、それよりも早くゴーレムが足を持ち上げた。 「やめてーーー!」 キュルケの悲鳴が上がった。だが、そんな悲鳴ではゴーレムは止まらなかった。 どず……ん―― 一際大きい地響きが生じる。ゴーレムの足はもう振り下ろされていた。 「そんな……」 呆然とつぶやくキュルケ。あのゴーレムの足の裏では、ルイズが目も当てられないようなモノになってしまっているだろう。思わず原型すら留めていない彼女の死体を想像してしまう。 タバサとルイズは大して交流は無かった。それでも、今回仲間として一緒に作戦に参加した仲だ。そしてルイズは気難しいが高潔な精神を持つメイジだった。そんな彼女を無残に殺された。タバサの心にも怒りが生じる。 敵は討たねばならない、とフーケが居るはずの森へと視線を移そうとしたとき、ふと何かが視界をよぎった。フーケかと思って目を凝らしてみるが、違う。その娘とは一度だけだが面識があった。 キュルケもそれに気付く。タバサよりも小さな身体。全身白一色の衣装。きらきらと翻る銀髪。ルビーのように真紅の瞳。 「あれは……!?」 「アルク……ちゃん……!?」 「何やってるのよ、このばかマスター」 轟音がしたのに、いつまで経ってもゴーレムの足は振ってこない。代わりに降って来たのは、彼女の声だった。ぎょっとして目を開けると、そこには彼女の使い魔のレンの顔が。 なんとルイズはお姫様抱っこをされていた。自分よりも背の低い幼女に、両肩と両膝を抱え上げられている。お姫様がお姫様に抱っこされているような、それは矛盾していながらも幻想的なシチュエーション。 そして、それはどさりとレンにルイズが捨てられることで終了する。呆然としていたルイズはお尻を地面に打ち付けた。 「な、何するのよ!?」 「貴女があんまりにもヘタレだから助けに来たんじゃない。そんなロケットランチャー振り回しても魔法が出るわけ無いでしょ」 冷たい目でこちらを見下ろしているレン。そんな瞳や打ち付けた臀部の痛みより、今レンが呆れたように言った言葉の内容に驚いた。破壊の杖をレンに見せてルイズは聞く。 「これが何か知ってるの!?」 「知識としてはね。使い方までは知らないわよ。あれが調べる時間をくれるとも思えないし」 ずしん、と響く音の音源へとレンは向き直る。ゴーレムとこちらは数メイルの距離が開いている。レンがルイズを抱えて救出した時にそれだけ距離ができたらしい。そのわずかな距離をゴーレムはのっそり近づいてくる。 「ルイズ、足止めはしてあげるわ。その間に安全圏まで離れてあの竜に乗せてもらいなさい」 言うが早いが、レンはゴーレムへ向かって駆け出した。ルイズが止める暇も無い。あっという間に互いの距離が0になるレンとゴーレム。 射程範囲に入った白い物体へ向かってゴーレムの前蹴りが跳ぶ。しかし、その時にはレンはゴーレムの足より上へ跳んでいた。 自分の身長の何倍も高くレンは浮き上がる。ゴーレムの胸当たりまで跳んだ彼女は、ゴーレムを自らの手で殴りつけた。 「レン……!?」 レンの攻撃は一撃では終わらない。四肢を駆使した突き、払い、振り下ろしのラッシュ。それを一度も着地せず、空で舞うように叩き込む。遠目に、彼女の両手両足に赤い光球があるのが見えた。あれでゴーレムを叩いているらしい。 しかし、ゴーレムにしてみればレンなど人間にとっての羽虫に等しい大きさである。少々の打撃など先程のルイズたちの魔法にも及ばない。あっと言う間に地面の土が生じた傷を塞ぐ。 お返しとばかりにゴーレムがレンを殴りつける。 「―――っ!!」 声にならない悲鳴を上げるルイズ。落下を始めて動けないレンに、彼女の身長の何倍もの大きさの拳が直撃する――! レンはそれに動じることもなく、空中で見事にエビ反りになる。まるで落ちる木の葉が巻き起こる風に乗るように、ひらりとレンは逃れて見せた。 回避してからもレンは止まらない。パンチを放ったゴーレムの腕を掴むと、自分の身体を振り子のように振り、勢いを付けてゴーレムへと飛ぶ! 「ちょっ―――!?」 もはやルイズの目はレンに釘付けだ。主の思いも知らずにレンは好き勝手に動く。いつも飼い主の事など歯牙にもかけない猫そのものに。 飛び出したレンはゴーレムにぶつからずに、脇腹の横を素通りして着地した。振り返ったゴーレムが左手を振り下ろす、が、間に合わない。手が激突する前にレンは射程外まで跳んで逃れていた。 ふと、ルイズはゴーレムの脇腹が光っていることに気がついた。よく見てみると、ゴーレムの脇腹に何か生えている。水晶のようにきらきらしたものが、まるで骨が飛び出したみたいに。 目を凝らしているうちに、飛び出ている何かは砕け散った。 「『ウィンディ・アイシクル』―――!?」 風と水をあわせて使う、『ウィンディ・アイシクル』という魔法がある。確かにその魔法に似ていたが違う。通常はは無数の氷の矢が一斉に襲い掛かるのだが、レンが放ったものは彼女の身長よりも大きな氷柱が一本だけ。それがいつの間にかゴーレムに突き刺さっている。 何よりも、彼女の手には相変わらず手には時折赤い光球が浮かぶだけで、杖を所持していない。彼女が姿を変える魔法を一瞬で行うように、恐らくあれも先住魔法の一種だ――。 「ちょっと! なんで逃げてないのよ!」 目の前で繰り広げられる戦闘に目を奪われていると、レンから叱責が飛んできた。レンの声が届くも、ルイズは動く事ができない。 ゴーレムは二人のやり取りになど頓着せず、再度ゴーレムが右腕を振り上げる――! 「ああもう、空気を……」 ズドォン、と地面へ叩き付けられるゴーレムの拳をターンして難なくレンはかわす。そして彼女も右手を高く掲げ―― 「読みなさいっ!」 勢いよく振り下ろす。その手の動きに従うように、先ほどよりも大きい氷柱が生じ、ゴーレムの足首に深々と突き刺さった。 そして先程のように氷柱は砕ける、がそれだけで終わらない。砕けた氷の欠片が無数の刃となって舞い、ゴーレムの足首を削っている。 削れた足首がゴーレムの巨体を支えきれず、ぐしゃりと潰れる。その隙を逃さず、レンはバランスを崩されたゴーレムの横を走り抜け、ルイズの元まで戻ってきた。 「逃げなさいって言ったでしょうが! 死にたいの!?」 ルイズを責めるレンにはいつもの余裕はない。彼女もあのゴーレムとやりあう事は危険だったのだろうか。 レンの叱咤にようやくルイズに生気が戻ってゆく。主人の気も知らず危ないことをしていたこの使い魔が憎らしくて、とにかく大声で反発した。 「逃げられるわけ、ないじゃない! 私は貴族よ! 貴族が敵に後ろを向けられるわけないわ!」 「そんな意地で死んだら本当に唯の役立たずよ! 杖の奪還を失敗したばかりか自分の命まで粗末にしたって嗤われるだけって分からない!?」 レンの言葉は、レンの『役立たず』という言葉は、今まで誰が言った蔑みの言葉よりもルイズの心にぐさりと深く突き刺さった。 その言葉が痛くて、レンを睨む鳶色の瞳に涙が浮かぶ。 「あんたには分からないわよ! 私よりも魔法が使えてあんなゴーレムとも殴り合えるあんたには! 私はゼロじゃない! もうゼロなんて呼ばれたくないの! だから……!」 ぼろぼろ涙を零しながらルイズは叫ぶ。 見返してやりたかった。馬鹿にされて見下されるばかりの毎日はもう嫌だった。だから討伐隊に志願した。フーケを捕らえればもうゼロと蔑まれることはないと信じて。 なのに結果はどうだ。盗賊風情のゴーレムに手も足も出なくて、危険なところを使い魔に救われて、その使い魔は敢然とゴーレムに向かっていって!? 自分は一体何をしに此処までやってきたのだ。暗い絶望がルイズの胸を押し潰し、危険から逃げることすら忘れさせていた。 「此処で逃げたら私は死んだも同然よ! 誇りすらないんじゃ私は正真正銘のゼロじゃない……!!」 こぼれる涙は留まるところを知らず、地面に涙が吸い込まれていった。ルイズは目の前の使い魔から目を逸らさずにしっかりと睨む。 レンはそんなルイズに複雑な表情を返していた。蔑むような、非難するような、あるいは……憧憬のような。 そして、そんな口論の時間が命取り。ゴーレムの足の修復は既に終わり、二人に向かって距離を詰めてくる。敵の接近を示す地響きを聞いて、レンは溜息を一つ付いた。 「……仮にも私のマスターならもっと強くなってよ。でないと私も力を振るえないんだから」 そう言うとレンは空を仰ぐように両手を広げる。すると、彼女から目に見えない何かが吹き出した。 「!?」 「よく見てなさい」 そう言うと、レンはゴーレムへ向かって歩いていく。無造作に、まるで散歩にでも出かけるような軽快さで。 ゴーレムの射程にレンが入った途端、天頂へ振りかぶられた豪腕が振りりかぶられる。だが、レンは避けようとしない。ルイズが避けろと命令するよりも早く、ゴーレムの渾身の一撃が繰り出される……! 「はい」 レンの軽い掛け声が聞こえた。レンを潰そうとするゴーレムの腕と、まるでそれを受け止めるように伸びたレンの手が衝突した、と思った瞬間――世界が暗転した。 「~~~!?」 もはや何が起こっているのかルイズには理解できない。ほんの一瞬前まで此処は草原だった。なのに今ルイズの眼に映るものは、鏡、鏡、鏡ーー無数の鏡だけ。他の空間は全て暗黒に塗りつぶされていた。 「ラストワルツよ……」 数瞬の後、鏡が一点に向かって集合、いや吸い込まれていく。 吸い込まれたのはレンの両掌の上。吸い込まれた一点だけが真っ白に輝き、闇の中に立った一人佇む彼女を照らしていた。 光りに照らされるレンに見入っていると、ビシリ、と黒いセカイに皹が入った。生じた隙間から入ってくる突然の光りにルイズの目が眩む。 「ーーーっ!?」 暗闇に慣れた目には痛いほどの光りの奔流。ルイズは両腕で自分の瞳をかばった。 「……夢から覚めまして?」 レンの声がする。おそるおそる目を開けてみると――そこはさっきまでの草原だった。レンは後ろで手を組んで悠然と立っている。しかし、ゴーレムは何処にも居なかった。 「は―――」 さっきからルイズは何も言葉にすることができない。何も理解することができない。かろうじてわかるのは、ゴーレムを消し去ってしまった張本人がレンだということくらい。 「まったく、木偶の坊ごときが手こずらせてくれたわ」 レンがさらりと髪を掻き上げて呟いた。その様子はいつもと全く変わらず、あんな巨大なゴーレムを相手したというのにまるで余裕のようである。 いったい自分の使い魔は何者なのか。エルフではないと言っていたが、実はエルフに勝るとも劣らないのでは? 自分の使い魔の所業に、最初の夢の時に抱いた畏怖にも似た感情を思い出す。未だ動けないルイズへ、レンが向き直って言った。 「お分かり頂けましたか? 貴女の使い魔の力を。私と契約しているからには、貴女もこれくらいはできるようになりますわ」 慇懃無礼な口調に戻って、呆然としているルイズへと語りかけるレン。ひょっとして、この使い魔は励ましてくれているのだろうか。 「それと、そろそろ泣き止んだ方が宜しいかと。キュルケたちに見られますわよ?」 ぼっと自分の顔が熱っぽくなるのを感じる。確かにさっき涙が零れてしまった時に、拭う事もしていなかった。気が付くと涙の痕が顔がひりひりしているのが判る。 ごしごしごし、と袖で自分の顔を乱暴に拭っていると、ばっさばっさと羽音を響かせてシルフィードが着陸してきた。 「こ、これは土埃が目に入ったからよ! 別に泣いたりしてないんだからね!」 「はいはい、そういうことにしておきます」 ルイズをあしらいながら、もうレンの瞳は降りてきたキュルケとタバサに向けられている。二人はこちらにゆっくりと近づいてきた。杖をレンに向けて。 「ちょっとあんたたち! どういうつもりよ!?」 「どういうつもりはこっちの台詞よ。ルイズ、あなたいつエルフを味方につけたの?」 二人はレンへの警戒を解かずにルイズへ質問する。確かに、この世界でエルフは恐怖の象徴だ。警戒されるのも無理は無いが、彼女は自分の使い魔なのだ。 ルイズはレンを庇う様に前に出るが、レン自身がそれを制する。 「恩人に向かってひどい対応ですこと。この前は食事を共にした仲ですのに」 「何者」 タバサの簡潔な問いに、レンはルイズに初めて会ったときのように優雅に一礼する。 「改めまして。私、ルイズの使い魔、夢魔のレンと申します。以後どうかお見知りおきを」 いつもの慇懃無礼な態度でレンは自己紹介を進めた。 「レン……って、あなたがルイズの白猫だっていうの?」 「エルフじゃない?」 二人とも目を丸くして聞き返す。 「そうよ。あの白猫よ。エルフじゃないわ。この娘は正真正銘私の使い魔よ。二人とも杖を下ろして。さっきも私を助けてたでしょう?」 「信じられない。夢魔があんな巨大なゴーレムを消せるだけの力を持ってるなんて」 「猫に化けるのも珍しい」 「あんまり珍獣扱いしないで下さらない? それより、あの眼鏡秘書とフーケ本人は何処かしら」 レンの言葉で、一行に緊張が戻る。そうだ、ゴーレムは消えたがまだフーケは確認できていない。が、ゴーレムを操っていた以上この付近に必ず居る。 4人それぞれが背中合わせになり、周囲を警戒する。すると、林から物音が聞こえた。全員がそこへ注意を向ける。杖と視線が集中する森から出てきたのは、眼鏡秘書の方だった。ロングビルだ。 「ミス・ロングビル! ご無事でしたか!」 「はい。申し訳ありません。ゴーレムに襲われて気を失っておりましたので」 襲われた、といっているが、しっかりした足取りでルイズたちへロングビルは近づいてくる。そしてルイズの傍に立つと、レンに目を向けた。 「それにしても、ミス・ヴァリエールの使い魔が先住魔法の使い手とは驚きましたわ」 その言葉に違和感を覚え、キュルケとタバサが怪訝な顔になる。ロングビルは静かに立ち位置をルイズの背後へと移動させていく。 「見てたのに助けに入らなかったの?」 「ええ、だって」 答えを言い終わらぬうちに、ロングビルがいきなり動いた。破壊の杖を持ったルイズの手をひねり、後ろ手に拘束すると、右手に持った杖をルイズの首筋に突きつける。 「お前らを襲うのに忙しかったからねえ」 前ページ次ページゼロの白猫
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魔王ゼロ@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー 詳細 別世界のルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが“ブリタニアの魔女”魔王C.C.と契約し、エデンバイタルの力を得た姿。 軍略・策謀を得意としていたゼロとは違い、筋骨隆々の堂々たる体躯を有し、KMFとすら生身で渡り合う。 別世界の自らと同様に黒の騎士団を率いて神聖ブリタニア帝国と戦うが、絶対皇帝シャルルが聖エデンバイタル教国を建国すると、 ゼロは異母妹であるユーフェミア・リ・ブリタニア率いる新生ブリタニア帝国と連合しシャルルを討伐、聖エデンバイタル教国を滅ぼした。 戦後はルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの名を捨て、“ザ・ゼロ”で死を得て滅んだC.C.から魔王の役割を引き継ぐ。 魔王として世界にギアスをばら撒き、世界を混沌で活性化させるために。 彼はいずれ最愛の妹であるナナリーや無二の親友であるスザクと敵対する事になる。 ルルーシュの名を捨てる直前、ナナリーの元へ姿を現し、別れと共にナナリーを愛し続けていると告げ、この世から消えた。 【NAME】 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア 【CLASS】 ブラックリベリオン 【MASTER】 なし 【STATUS】 筋力:A 耐久:B 敏捷:C 魔力:B 幸運:C 宝具:EX 【SKILL】 騎乗:C 騎乗の才能。機械仕掛けの“騎士の馬”たるナイトメアフレーム(KMF)を操縦する技量を表す。 ゼロは直接機体には乗り込まず、頭部や肩部など外装部に立って遠隔操縦を行う。 カリスマ:C 軍団を指揮する天性の才能。一軍を率いる総帥の器。 軍略:B 多人数を動員した戦場における戦術的直感能力。自らの対軍宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。 魔力放出:B 武器、ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させる。 ゼロは魔力の代わりにエデンバイタルのエネルギーを身に纏う事で、生身で人型兵器と格闘戦を行えるほどの身体能力を得る。 エデンバイタル:EX 現宇宙誕生前から存在する、万物を支配するエネルギー・法則。時空間のどこにでも同時に“存在・干渉”するモノ。 ギアスはエデンバイタルにアクセスして宇宙の理を捻じ曲げるが、ゼロは魔王の役割をC.C.より譲り受けたため、ギアスを行使せずエデンバイタルにアクセスできる。 その力の一端は、音速で発射された銃弾を空中に固定する、マントを硬質化させ打撃に用いる、自らを量子化させて転移するなど、万能と呼べる物。 ただしゼロはエデンバイタルを介してムーンセルをハッキングしているため、SE.RA.PH内ではこの権能は大きく制限される。 【NOBLE PHANTASM】 黒き魔王の玉座(ガウェイン) ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:2~50 最大捕捉:100人 全高6.57m、全備重量14.57t。量子シフトにより瞬時にゼロの元へ召喚される大型ナイトメアフレーム。 肩部に粒子加速砲“ハドロン砲”を二基、指部に射出型ワイヤーアンカー“スラッシュハーケン”を十基搭載している。 大型ランドスピナーで高速地上走行が、フロートシステムで空中飛行が可能。 神の力(ザ・ゼロ) ランク:EX 種別:対神宝具 レンジ:1 最大補足:1人 “森羅万象を無に帰す力”。 全能たるエデンバイタルと個にして同等、契約を必要とせず行使できるワイアードギアス。 掌部から生み出される光を対象に当てる事で発動する。 有機無機問わずあらゆる存在の活動を停止させる、KMFの斬撃を受け止めるなど、攻守両面において威力を発揮。 高次次元であるエデンバイタルへの強制的な侵入すら可能とし、不死の存在であろうと逃れ得ない滅びを与える。 このワイアードギアスとエデンバイタルから遣わされた力により、ゼロは世界に混沌をもたらす黒き魔王として君臨した。 ゼロはエデンバイタルとリンクしているため、実質この能力でしか滅ぼす事はできない。 また、自らを自らのギアスで滅ぼす事はできないため、ゼロはザ・ゼロと同等以上のギアスを他者に発現させようと魂の選定を進めている。
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明るくなってきた頃妙な重みを感じ目を覚ましたが、前。 「なんだこりゃあ…」 正確に言うと、視線の斜め下75°の先に黒い髪。 シエスタの頭があって本気でビビった。 おまけに顔をこちら側に向けているため、スーツの胸のあたりに思いっきり涎の跡が付いている。 普通に考えると、ちょっとばかりアレでナニな状況で人に見られたらモノ凄く誤解されそうだが 正直、今のシエスタさんには魅力もクソも何も無い。 素面でやってるのなら平均値を上回る胸が当たっているだけに効果はそれなりにあるかもしれない。 …が、ここに居るのは潰れた酔っ払いの成れの果て。 脱いだら結構凄いのにそれなりに重要な局面で悉く空回りしているのが勿体無い。 したがってプロシュートにとって、今現在のシエスタも手の掛かる弟分扱いである。不憫。 もっとも、この唯我独尊がデフォルトな元ギャングに目上として扱われる者はそう居ない。 暗殺チームにおいても、リゾットが唯一それに該当し、後はペッシを除いてほぼ横。 ましてリゾットが居ないこの地においては、表面上はともかく芯のとこでは『平等に価値が無い!』と言わんばかりに目上という扱いが無い。 ルイズはもちろんのこと、アンリエッタですらまだまだ甘ったれたマンモーニで、オスマンに至ってはただのスケベジジイという扱いである。 老若男女、生物であるならば一切合財の区別無く平等に老化させるというスタンド能力はここから来ていると見て間違いないはずだ。 首を曲げるとゴギャンと良い音がした。 妙な体勢で寝たというのもあるだろうが、人一人がもたれ掛かってる状態が続いていたのだ。 一瞬、どういう状況か理解できずに、頭の中にメローネがパク…インスパイアされて作った『生ハム兄貴』なる歌が流れたが、思い出した。 「ああ…クソッ…!こいつが潰れて離れなかったんだったな…」 さすがに、もう掴まれてなかったので引っぺがしてベッドに運んでやる。 本来なら放り投げるとこだが、寝起きは低血圧のため若干対応が柔らかい。 イタリア人的に考えれば、色々と何かやっててもおかしくないが ご存知プロシュートはそういう方面では全く以ってイタリア人的要素を持っていないため、メローネのような事にはなりはしない。 ただ、ご存知兄貴気質のため、これが少なからずとも世話になっていたシエスタでなければ、問答無用で蹴りが入っているところである。 少しすると、苦しそうな寝息を立てはじめる。 「そりゃあ、潰れるぐらい飲めばな…」 床に転がっている酒瓶を見て呆れ気味に呟いたが、シエスタは何かうなされているような感じだ。 「…あうう…よ…妖精さんが……圧迫…祭り……」 「このヤロー…圧迫されてたのはこっちだってのによ」 まぁ、なんのこっちゃとも思ったが『圧迫祭り』という言葉に心当たりは無い。 ただ、妖精さんは心当たりがあるので、機会があればついでに聞いてみる事にしようと決めて部屋の外に出た。 「っはうあ!……今…おぞましいほどの悪寒が…何事!?」 襲撃を受けた暗殺者かというぐらいの速度で飛び起きたのはご存知エレオノールだ。 妖精さんは広まっていなかったが、新たな火種を抱えてしまいダブル・ショックである。 だがッ!鞭を振るっている時に僅かながらだが高揚感があったのも確かッ! 無論、『女王様』などという称号は頂きたくもないし、認めたくも無いので無かった事にしてしまっているが。 それでもッ!背筋にゾクッときたものがあるのも事実である。 グビィ 喉の奥の方で生唾飲み込むと、御愛用の鞭を手に取り振ると先端が中空を斬り風切り音が鳴る。 …が、今現在は何の感情も沸いてこない。 「気のせいね…まったく…それもこれも全部あの平民のせいだわ…」 重ねて言うが、一応あれでも貴族の子弟である。 とりあえず、まだ薄暗い時間帯だ。普段忙しい中での久しぶりの帰省である。もう少し寝なおす事に決めた。 なお、夢の中で『圧迫祭り』が開催されていたのは言うまでも無い。 「あう…いたた…」 プロシュートが出てからおよそ一時間後ようやくシエスタが目を覚ましたが、二日酔いであろう頭痛を感じ頭を押さえていた。 状況確認のために辺りを見回すと転がっている酒瓶が視界に入り、一応の理解はしたようだ。 「そう言えば…夕飯の時に一杯ぐらいならって思って…ど、どうしよう…もし失礼な事でもしてたら…」 失礼どころか一犯罪犯しかけたのだが、酔っ払いには二種類ある。 酔ってる時の記憶が綺麗に飛んで何も覚えていないタイプと、酔ってる時の記憶がしっかり残って起きてから後悔するタイプに分かれる。 シエスタは前者と見て間違い無い。 「でも、なにか良い事があったような…」 必死になって記憶を探ったが、思い出せそうにない。 一つだけ、誰かを掴んで一緒に居たような気はしたが。 「夢だわ…夢!……たぶん」 リアルでやってたらと思うと、顔から火が出る思いだったので夢だと思い込む事にした。 もっとも、現実だったらそれはそれで良かったのだが、相手は手の届かない所に行ってしまってるだけに夢としか思えなかった。 が、それはそれ。 未だ戻ってくると信じている。当の元ギャングがどう思っているかは知らないが強い子である。 ただ、シエスタの不幸は酒癖が悪い事であり、二日酔いになるまで飲んでいなければもう一時間ばかり早く起きれてご対面できたかもしれない。 まあ、その場合は説教確定なので運が良いのか悪いのか。 そうしているとシエスタが少しばかり悶え始めた。 どうも夢と思っている内容から妄想が発展気味になっているようだ。 「……や、やだわ、わたしったら…で、でも」 R指定一歩手前…もとい、突入していたのだが、まぁ例によってそういう小説を読んでいたのだから仕方無い。 妄想力(もうそうぢから)は、かなり高い方らしい。突っ走るタイプとみて間違いない。 生憎のところ部屋には一人。止める者なんぞいやしない。 もうスデに頭の中では幸せ家族計画まで構築されており、色んなデートプランが練られている。 本人が聞いたら説教間違いなしだが、突っ込む事ができるものは存在しないのだ。 自重という文字は今現在、存在すらしていない。多分、今のシエスタはエコーズACT3やヘヴンズ・ドアーですら止められない。 おかげさまでテンション絶賛上昇中でカトレアが扉をノックする頃には、タルブで二人してワインを造っているというとこまでに発展していた。 廊下を適当に歩いていると随分と騒がしくなってきた。 大体の事は分かっている。ルイズの親父、つまり、ヴァリエール家公爵が帰ってきたらしい。 「さて…あの頑固親父を説得できるかどうか見物だな」 まー無理だろうとは思うが、やらないよりマシというとこだ。 防御側が五万に対して侵攻側が六万。数の上では勝っているが本来、侵攻側が確実に勝つには防御側の三倍の兵力を要する。 急な侵攻計画で準備期間も足りず、学生を徴用するようでは無謀だとパパンは反対している。 プロシュート自身、戦略的に正論だと思わんでもないが この際、やるからには精々ハデにやらかして陽動してくりゃあいいと思っている。 つまるとこ、説得できようができまいが、どうなろうとどうでもいいということだ。 だが、そこに一つ疑念というか気にかかるものが浮かんだ。 (おいおい…オレは何時からロハで仕事するようになったんだ?) 自分でもそう思わないでもないが無理も無い。 パッショーネに属していた時でさえ、一応の報酬はあった。 スデに恩義も返しフリーな身である以上実利的な面からしてクロムウェルを殺る理由が無いのだ。 ただ、感情的な面から言えば別だ。 アンドバリの指輪の件で大分ムカついているのである。 前ならば、報酬無しで動くなぞ考えられなかったし、基本的に感情に流される事無く一切の区別無く対象を始末してきた。 組織に敵対したのも、組織から不当な扱いを受けたからというチームとしての実利的な面から取った行動だ。 本来なら、アンドバリの指輪の件では、自分や借りのあるヤツが直接害を蒙っていないので感情のみで動く理由も無かったはずだ。 だからこそ、そこに生じた矛盾に多少戸惑っている感はある。 「やれやれ…考えたところで仕方ねーな」 そのあたりは変わったつもりは無いが、それは自分でそう感じているだけで外から見ればどうなっているか分かったもんではない。 リゾットあたりが、この状況下におかれていたらどうすっかなとも思ったがそんな仮定を考えても仕方無い。 とにかく今は、濃いオッサンのために掃除なんぞする気も無いので昼頃までバックレる事に決めた。 この元ギャング、雇われている身でありながら実に自由人(フリーマン)である。 空を流れる雲を寝ながら眺めているプロシュートだったが、未だ警戒は怠ってはいない。 場所は池のある中庭の小島の影。 城の中から死角でサボるには非常に適切な場所であるため、結構気に入っている場所である。 バレたらバレたで表面上適当に『すいませェん』とでも言っときゃいいと思っている。 まぁ、バックレると言っても特にする事もなく、何も考えてはいない。ただ単に空を見ているだけだ。 実際のとこ、ここまで空を見てみるのも久しぶりだ。 今までやる事成す事全てにおいて血の臭いが漂っていたが こういうのも性には合わんがたまになら良いかもしれんと思ったとこで足音に気付き、軽くその方向を見ると思考を呼び戻し瞬時に行動させる。 ルイズが半泣き状態でこちらに向かってきているからだ。 さすがに、こいつにバレたら洒落にならんという事で身を隠したが、ルイズは小船の中に潜り込み毛布を被ると本格的に泣き始めた。 どうやら、パパンの説得は見事失敗したらしい。 放っておいてもよかったが、性分からして、こういうのを見るとつい説教しに出ていきたくなる。 「あー、クソ…鬱陶しいな。この腑抜けがッ」 遠い暗殺より目の前の修正…もとい教育。 一発殴って気合入れてやろうかとも考えたが、それをやると、今までやっていた労苦が水泡と帰す。 不測の事態でバレるのは致し方ないとしても、自分からバラすなぞ最たる愚考だ。 石で勘弁してやろうとし、適当な大きさの石を掴み投げようとしたが、また足音が聞こえた。 こちらも見知った顔だ。 昨日酒をくれてやったばかりのマンモーニ。 それが池に入り、ルイズが入った船の毛布を剥ぎ取りなにやら言っている。 細かい事までは聞こえなかったが、カトレアが馬車を用意したらしいが、何故かルイズが拒否している。 今にもドシュゥーーz___という音を出しながら投げようとしていた石を後ろに捨てるともう少し様子を見る事にした。 「いくら頑張っても、家族にも話せないなんて。誰がわたしを認めてくれるの? 皆、わたしの事なんて魔法が使えない『ゼロ』としか思ってない。なんかそう思ったら、凄く寂しくなっちゃった」 ルイズはそう言ったが、一人だけ自分を相応に認めてくれていた者が居た事は知っているが それは、もうここには居ない。 才人が着た時シルフィードの夢で見た内容と被って思わず頭を押さえたのだが 今になってみれば、まだ夢と同じように説教された方が良かったかもしれない。 「俺が認めてやる。俺が、お前の全存在を肯定してやる。だから、ほら立てっつの」 さっきよりも小さくなったルイズを見て、何かに本格的に目覚めそうな才人がそう言ったが 自信とやる気がほぼ『ゼロ』になっているルイズにはあまり意味を成さない。 「何が『認めてやる』よ。上っ面だけで嘘つかないで」 「嘘じゃないっての」 「…汗かいてるじゃない。今回の戦だってどうせ姫様のご機嫌取りたいんでしょ。キスなんてしてたし」 非常に冷たい声だ。DISCが刺さっているのならホルスかホワイト・アルバムだろう。 「ばば、馬鹿お前、あれは成り行きで……」 「成り行きでキスするの?へぇ~そぉー。もう放っといてよ」 言い訳無用な感じで言葉に詰まった才人だったが、続くルイズの言葉にいきなりキレた。 ルイズが『主人をほったらかして何やってるのよ…』と小さく呟いたのだが、才人には妙に大きく聞こえたのだ。 ルイズを主人にするのは使い魔たる才人だが、それはここに居るから才人の事では無い。 ルイズは思わずそう思ってしまって口に出ただけだが、先代。つまりプロシュートの事だ。 いたがって対抗心全開の才人からすれば『こうかは ばつぐんだ!』である。 「バカか?お前は!」 「なによ!誰がバカよ!」 「じゃあ大バカだ!誰か好き好んでお前みたいなわがままでえったんこのご主人様の使い魔やってると思ってるんだっつの!」 「か…!誰が板よ!よ、よくも言ったわね!この…犬!」 「いや、板とは言ってない!でも何度でも言ってやる! 正直な、俺だって戦なんて行きたくないし元の世界に帰りたいんだよ!そんなに前のヤツがいいなら、そいつと行けよ!」 「だったら帰ればいいじゃない!そうすればもう一度サモン・サーヴァントができるわ!」 売り言葉に買い言葉だが、二人とも似たタイプだけに止まらないし並大抵の事では止まらない。 ルイズとしてはポロっと口にしただけで、才人も先代の名前を出したからこうなっているが、両者とも本心ではない。 「……っかー、見てらんねぇ。痴話喧嘩じゃあねーか」 横で聞いている方からすれば、ガキ同士の喧嘩だ。それもかなりレベルの低いやつ。 思いっきり聞かれている事なぞ露知らず喚き散らす二人を見て呆れたものの これ以上ここに居る気も無いので見付からないように中庭から離れたが、少し目が暗殺者のそれに変わった。 池の方を見るとカトレアを除いたヴァリエール家御一行とほぼ全ての使用人が池を取り囲むようにしている。 理由は分からんが、なんかやったのだろう。 体験した限りガンダールヴなら大丈夫だろうとも思ったが、考えてみれば才人は丸腰だった。 「こいつは…『HOLY SHIT』っつーんだったか?ありゃ死んだな」 武器が無ければ一般ピーポーである才人なぞ、まな板の上の鯉。まさに俎上の魚だが あのウルセー剣を渡すつもりは無い。あんなのに知れたら一発でバラすだろうからだ。 回収するにしてもそのまま盾として使うつもりでいる。 無ければ向こうは困るだろうが、こっちだって困る。 一国のボスを殺るからには、それ相応の下準備というか、明確な弱点と能力特性があるだけにできる限りは伏せておきたいのだ。 ホワイト・アルバムやマン・イン・ザ・ミラーなら、こんな面倒な事せずに楽でいいのだが。 無論、ここで老化を使うと確実に巻き込んでバレるので、使う事はできない。 ルイズ達自身で乗り切って貰わにゃならんのだが、どうやらそうもいかないようだ。 何かが池に落ちた音がしたが、これはルイズが才人を突き落としたせいらしい。 続いて、やたら威厳のある声が聞こえてくる。 「ルイズを捕まえて塔に監禁しなさい。一年は出さんからな。 で、あの平民な。えー、死刑。メイジ36人集めてウィンド・カッターで輪切りにして瓶に詰めて晒すから台を作っておきなさい」 「かしこまりました」 モノ凄く覚えのある処刑方法を聞いて、決めた。 殺しはしないが、そのうち一回シメると固く誓う。 直接手は出せないので、まず、前のように自身を老化させ、適当なやつから武器を奪う。 何か言いたそうだったが夢の世界へと無理矢理ご出席して頂く事で解決した。 ルイズは小船のなかで半分呆けているので丁度いい。 取り囲まれてパニクっている才人目掛け剣を投げた。 「やべぇかもな…」 淡々とギャング的処刑法を命じるヴァリエール公爵を見て本気でヤバイと思い始めたが 急ぎだったのでデルフリンガーは持ってきていない。 今にも『ズッタン!ズッズッタン!』というリズム音が聞こえそうだったが、そこに風切り音がして目の前に剣が一本抜き身のまま突き刺さった。 思わず飛んできた方向を見ると、昨日見たばかりの顔を見て少し躊躇したが目が合った。 そうすると、親指で自分の後ろを指差し、続いて同じように親指で首を掻っ切るように走らせ、それを下に向けた。 『さっさと行かねーと、オレがオメーを殺す』 意味合いは違うが、助けてくれたと判断して剣を引き抜くとルーンが光る。 放心しているルイズを肩に担ぐと走り出す。 すれ違う瞬間に頭を下げ侘び入れながら駆け抜ける。 元使い魔としては別段驚く速度ではなかったが、それを知らない連中はおったまげている。 「ななな、何しとるんじゃああああァーーーッ!」 一拍置いてヴァリエール公爵の素敵なシャウトが響き渡るが、もうスデに遠い所まで行ってしまっていた。 放心したところを背負われたルイズだったが、使用人の一人とすれ違い、顔を少し上げ、その背を見た時少し違和感を感じた。 何故だかよく知っている気がしたからだ。 だが、背負われているため、それはどんどん小さくなる。 「ま、待って!戻って!」 「無理言うな!」 戻って確認したかったが、戻れば『輪切りの才人』が出来上がる事になる。 諦めたのか大人しくなったが、やはり妙に気になっていた。 この前の雨で辛うじて生き残っていた煙草に火を付ける。 煙草を吸うときは、ムカついた時と一仕事終えた時であるから、一応ミッションコンプリートである。 公爵の素敵なシャウトが轟き、そっちの方に目をやるとプッツンした公爵と使用人連中が後を追い、蒼白を通り越して白くなった顔の公爵夫人がブッ倒れ運ばれている。 暗殺を達成したような気分で煙を吐き出すと、その煙の向こう側から良い感じに強張った顔のエレオノールが音を出しながらやってきた。 「…どういうつもり?」 「何がだ?」 「あの平民に剣を投げ渡した事よ!」 見られてたが、少し遠かったので老化してた事はバレていないようだ。 「アレか。言うだろ?オレは馬に蹴られて死ぬってのはゴメンなんでな。大体、妹の心配するより先に、てめーの方を心配した方がいいんじゃあねぇか?」 「くぐ…うるさい!今日という今日はどうなるか分かってるんでしょうね。父様や母様に知れたらクビじゃ済まないわよ」 「気にしなくてもいいぜ。今日で辞めるからよ。ああ、そうだ。ついでに一つ聞きたかったんだが…『圧迫祭り』って何だよ?」 どの道、これ以上ここに居ても得る物は何も無さそうだ。 そろそろ、別の場所で動くべきだろう。いっその事アルビオンへ乗り込んでもいいが、船が出ているどうか微妙なところだ。 「な…何故それを…!」 またしても息を吐き出し崩れ落ちたエレオノールだが、それを見て何かあるなと思い追撃を仕掛ける事にした。 「人それぞれだからな、知られても死にはしねぇだろ」 「ああ…あのメイド…よりにもよってこんなヤツに……!」 例によって聞いちゃいないようだ。 「まぁ気にすんな。強く生きろよ」 もう完全に勝ったと思いエレオノールに背を向け煙草を吸ったが、殺気を感じた。 後ろを振り向くと手に鞭を持ちゆっくりと立ち上がっている。 「ヤッベ…やりすぎたか?」 「フフフ…口封じしないと…そう、まずは…」 言うが否や鞭が振るわれる。 それに当たるプロシュートではないが、エレオノールの妙な迫力には若干引いている。 「おい、戻ってこい」 こいつも、ルイズと同じと判断したが、どこか意識がブッ飛んでいる感じがしないことも無い。 どこか意識が飛びながら鞭を振るうエレオノールだったが、あの時感じた高揚感を感じていた。 (これよ…!これでないと!!) 今はまだ鞭が当たっていないが、当たればそれが確証に変わるという事は分かっている。 理性の面では認めたくないが、その理性がブッ飛んでいるので止まりたくても止まらない。 半分トリップしたかのような顔で鞭を振るうエレオノールを見て、そういう事かと判断したが、このままされるままというわけではない。 「なんで周りにこんな面倒なヤツしかいねーんだよ…いい加減戻って…来い!」 「か…ッ!」 非常に良い音がしたが、それもそのはず。 重なるようにして拳がエレオノールの鳩尾に入っているからだ。 ギャングを辞めたとは言え、その力はまだまだ衰えてはいない。 「ベネ(良し)…ま…そのうち起きんだろ」 一呼吸置いて、今度こそ間違いなくエレオノールが崩れ落ちた。 寝ている面だけなら、何時もキツイ顔してるヤツには見えないんだがな。 そんな事考えていると跳ね橋が上がる音が聞こえてくる。 そこまで面倒見きれんとして、橋が上がる様を見送っていたが、鎖が変色し土に変化した。 『土くれ』ことフーケを思い出したが、そんなもんがここに居ない事は確認済みだ。 この屋敷であいつらに手を貸しそうなメイジと言えば一人しかいないので正体はすぐ分かったが。 街道の向こうに遠ざかる馬車を窓から見つめたカトレアだったが、激しく咳き込んだ。 遠距離で『錬金』を唱えたからで、遠距離型スタンドを無理に使ったような感じだ。 普通なら精神力の消耗だけで済むが、カトレアの場合肉体的にもかなり疲労する。 少し意識が遠くなって倒れかけたが、間髪入れず猫草が空気クッションでフォローしている。 「ありがとう、大丈夫よ。もう平気」 「ウニャン」 そう言って猫草に笑みを浮かべると丸まって寝始めた。 とことん自由な生物(ナマモノ)である。 完全にこの家に居付く気だ。まぁベースは植物なので動けないのだが。 そこにいつの間にか扉近くに立っていたプロシュートが壁にもたれながら声をかける。 ヴァリエール家の使用人が着ている服ではなく、お馴染みのスーツ姿だ。 一応才人の部屋も回ってきたがデルフリンガーは無かった。一応回収はされたらしい。 「よぉ、アレはお前か。中庭の場所教えたのもそうだろ?面倒見がよすぎるってのもどうかと思うぜ」 「あらあら、あなた程じゃないわ」 兄貴と呼ばれているだけの事はあって、面倒見のよさにかけては定評があるプロシュートだ。 笑いながらそう言ってきたがぶっちゃけ反論の余地が無い。 「ちっ…言い返せないってのが洒落なってねぇ」 一応、本人もその辺りは自覚しているが、最後まで調子を狂わせてくれるヤツだ。 天敵というのはこういうのをいうのだろう。 もちろん、殺ろうと思えば殺れる相手だが、顔見るだけで毒気を抜かれてしまうような感じだ。 なんというか、オーラそのものが違う領域で同じ生き物と思いたくない。 「あいつらはどうした?」 「もう行ったわ。この子みたいに何時までも籠の中の鳥じゃないって事ね」 その視線の先には籠の中で包帯を巻かれていたつぐみだ。 笑みを浮かべながら中に手を伸ばすと、つぐみが手の上に乗った。 包帯を外されたつぐみを、ものスゴク輝いた目で猫草が凝視していたので布を被せたが そうしていると、カトレアが窓から手を出し2~3語りかけると、空へと飛び立って行った。 布を被せるのが少し遅れていたら、潰れたつぐみを食べる猫草という、少しばかり精神的外傷を残しそうな光景になっていたので間に合ってなによりだ。 「それじゃあオレも行くか。面倒かけたな」 「ええ。あなたにも、始祖のご加護がありますように」 例の鋭い勘によって出て行く事を分かっていたようで、特に驚きもされなかったが。 「ああ、言い忘れたが、ファッツ(大蛇)は最近食いすぎだ、控えさせろ。チャリオッツ(虎)の毛並みが最近悪いから、一度診て貰った方がいい。それから…」 今まで仕事で世話してきた危険動物達だが、状態はしっかり把握している。 仕事の内容に関しては手を抜いたつもりは無い。 そして、続きを言おうとすると、笑いながらカトレアに止められた。 「やっぱり、あなたの方が上ね。この子達の事はもういいから、代わりにルイズと、その騎士殿の事をお願いするわ」 そうすると、少しばかり真剣な目でカトレアがプロシュートを見つめた。 「あの子、ワルド子爵の件ではもう落ち込んだりしてなかったけど また、あの子の居場所が無くなったら取り返しが付かなくなるような気がするの。だから…」 「あー、分かった、分かった。見れるとこでならオレのやり方で両方纏めて面倒見てやんよ」 無論、本気で見れる範囲内の事でだ。手の届かない場所の事は知った事ではないし 守るよりも攻めを得意とするので、クロムウェル暗殺をやらんといかんなと一層思う。 頭を潰せばどんな生き物でも死に至る。それが例え組織でもだ。 レコン・キスタやパッショーネのような新興組織なら、なおさら頭を潰された時の混乱は大きい。 その隙を付いて麻薬ルートを乗っ取ろうとしただけに現実味がある。 「ったく…にしても人の事心配できる立場じゃねぇだろうが」 本来なら、カトレア自身が身体の弱さから心配される立場だ。 「いいのよ。あの子には先がある。私と違ってね」 そう言って目を閉じたカトレアだったが、それを聞いたプロシュートがカトレアの頭を一発叩いた。 「病人に言いたかねーし、やりたくもないんだが、この際だ。ついでに言わせて貰うぜ。 誰がオメーに先が無いって決めた。医者か?他人に言われて限界決めてんじゃねぇ。どうせなら最後まで足掻いてみろよ」 出来て当然と思い込む。 精神そのものを具現化するスタンド使いにとって大事な事だが、非スタンド使いにも言える事だ。 病は気からという諺もある。 やりもしないでハナっから投げ出すというのは、この男の最も嫌うところである。 しばらく呆然として俯いていたカトレアだったが、いつもと変わらない笑みを浮かべ顔を上げた。 「そうね。見てるだけじゃなくて私も…」 そこまで言ってプロシュートの姿が無い事に気付いた。 寝ている猫草に向けて杖を振ると、鉢が浮きカトレアの腕の中に納まる。 相変わらず、気にした様子も無くゴロゴロと音を立てている猫草を見てカトレアが決めた。 今度、この動けない猫草を自分が連れて街へ出てみようと。 やれるやれないは関係無い。そう思うだけでも十分だった。 プロシュート兄貴―無職! エレオノール姉様―『未』覚醒! 猫草―ヴァリエール家に根を張る 戻る< 目次 続く
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ネタバレおkな方だけスクロールしてください #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (理保/riho_01.jpg) 本名 双葉 理保 誕生日 12月20日 年齢 20歳 スリーサイズ 96・59・85 血液型 B型 出身地 九州 好きなお酒 ビール 好きな食べ物 甘いミカン 苦手な食べ物 納豆 好きなタイプ たくましい人
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ネタバレおkな方だけスクロールしてください #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (亜麻音/amane_01.jpg) 本名 白金岬 誕生日 6月25日 年齢 20歳 スリーサイズ 83・56・85 血液型 ARH- 出身地 東京都 好きなお酒 ビール 好きな食べ物 グミ 苦手な食べ物 ピーマン 好きなタイプ ターザン、ワイルドな人
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